そして何より、僕のジャンプ生活の根幹はここにある。
3.ジャンプテクニックの解析
ジャンプの長距離を出すための基本理論を、自分で納得がいくレベルで理解していた。
■ずっと見てたテレビ中継
僕の中に刻まれてるジャンプの基本理論は、大半がテレビ放送の解説から来ている。
八木弘和さん、小野学さんの解説が、自分のベースになっている。
2020/5 追記:
八木さん、小野さんどちらも、今振り返っても素晴らしい解説をされていたと思う。このお二人が解説されてた時代にずっとジャンプを見ていられたのは、とても大きな幸運だった。
最近では、一戸さんの解説がすごく好き。物理現象に忠実な感じで、小野さんを連想した。竹内元康さんの解説も、実況アナばりに盛り上げてくれて楽しい。
長野五輪以降ずっと、ジャンプの大会は全て録画するようになった。たくさん試合の放送を見た。
中学生の頃の思い出というと、自宅でばあちゃんとお茶を飲みながら、延々とジャンプを見てた思い出が一番印象強い。今既に87歳だけど、船木、岡部、原田、葛西、斎藤、宮平、シュミット、アホネン、マリシュ、、このあたりの名前は今も覚えてる。一緒に繰り返し見てたからだ。
ここで、僕はテイクオフ動作をコマ送りすることで、個性の強かったトップ選手たちの動作を解析を始めた。
というのも、放送の中で解説者はジャンプに対して様々なコメントを言うけれど、
その言葉の中から、成功ジャンプと失敗ジャンプの違いや、良いジャンプとはどういうものか、強い選手の特徴は何なのかなどを、実際の映像の中で理解したかったからだ。
そしてこのときの動作解析の経験が、ジャンプを実際に飛び始めた今、すごく活きている。
■動作解析:解説者の言葉を自分の目で裏付ける
例えば、原田選手は高く、船木選手は低くといったような言葉はよく耳にしたけれど、
映像を見ながら、実際の動作として何がどう違うんだ?といったことを、自分の目で確認していた。
また、解説者(八木さん)が、テイクオフのタイミングが早かった、方向が上だった、などと言っていたとしたら、これもテイクオフをコマ送りすることで、このタイミングだったら早いのか、ではどこだったら遅いんだ?本来の方向はどこなんだろう、などいろんな選手のジャンプを比較しながら確認していた。
解説者のコメントは、ほとんど全て納得して理解するまで、自分の中に落としこんでいた。
だからこそ、成功ジャンプと失敗ジャンプの違いなど、かなり把握出来るようになっていたと思う。
TV中継を見ていても、選手が飛び出した瞬間にある程度の飛距離が分かるようになっていた。
■技術が分かるからこそ感じられたこと
ここで、1998-1999シーズンから施行されたルール改正(いわゆる「146%ルール」)は印象深い。
長身選手が相対的に有利になったスキーの長さのルール改正だ。
これも、ジャンプを見ていて技術的に良し悪しが分かってきたからこそ、印象が深くなっている。
このルール施行後、優勝している長身選手のテクニックが、どうしても上手と思えなかったことがあった。長身選手が技術的に明らかに失敗しているジャンプなのに、身長の低い岡部選手より遠くに飛んでしまう。岡部選手といえば、世界トップクラスの実力者だ。世界選手権優勝、当時ワールドカップで表彰台に登った回数は日本人最多だった。それなのに、成功ジャンプをしても、長身選手の失敗ジャンプに及ばない。そんなこんなで、ルールに全く納得がいかず一人でモヤモヤしていた。
■テクニックの変化に気付ける
また、シーズンをまたぐと、前年と飛び方を変えてきている選手がいることに気づく。
例えば岡部選手は、短いスキーで浮力をつかむため、V字の幅を広げたり、
テイクオフの方向を上向きに変えて、落下の力でスキーと身体に一体感を持たせたりなどしていた。
さらに、風によって空中のスキーの角度を変えたり、ジャンプ台の大きさや形状によっても飛び方が違うことも把握。テイクオフで失敗したときの空中で前傾をかけるタイミング、スキー角度でフォローが出来るなども理解。
■好きだった本
あと、ジャンプの本も読んだ。
もともと資料が少ないスポーツだけど、圧倒的名著だと思うものはこれ。
・ジャパンマジック 金メダルへのフライト(小野学 著)
父親が見つけて買ってきてくれた記憶がある。今は買い足して3冊くらい持ってる。名著すぎて。
次点としてはこれら。
・白い森、風の丘 ノルディック複合・スキージャンプ日本チームの軌跡 (竹内 浩 著)
・誰よりも遠くへ 原田雅彦と男達の熱き闘い (折山 淑美 著)
テレビ中継の八木さん、小野さんらの書籍、そして自分でやった解析によって、ジャンプ動作の基本を理解していた。上半身を起こすことがいかに悪か、スキーを立てるのは飛行効率が極めて悪いということを理解した。さらには効率の良いテイクオフ、飛型の違いと空中効率の関係、スキー・スーツのルール変更に合わせたテクニックの変化など、長距離を出せるジャンプがどういうものかが、自分の中で体系づいていた。
そして何を隠そう、Wikipediaで「岡部孝信」の記事を書いたのは、大半がこの僕だ。5年ほど前に、ここまで書けるのは世界で自分しかいないと確信して、使命感を感じて書いた。笑
その後ほとんどアップデートされないので、やはり書いておいて良かったと思う。
たぶん、ここまで詳しいのは世界に誰もいない。と思ってたけど、驚異的と感じたやつが一人だけいた。あいつはすごい。でも、僕らが世界のトップ2な気はすごくしている。
このときの解析生活の積み重ねが、実際にジャンプを飛んでいる今、確実に生きている。
■ジャンプを飛ぶときに生きていること
同じく大人になってからジャンプを始めた大学生と比べて、
自分はぶっちぎりで強いと思うんだけど、その差は全てここにある。
まず、自分で自分のジャンプを見て、良し悪しが分かり、課題を見つけ出せる。
だから自分で修正点を絞って、改善に向けたイメージをつくることが可能だ。
何をすればいいか分からない、ということがほとんどない。方向性を見失うことが極端に少ないと思う。
そしてコーチからアドバイスを受けても、理解の早さと深さが段違いなはず。
アドバイスをきいて、内容を即座に直感的につかめる。
ああ、葛西紀明ぽくってことか、とか、あのときの船木さんのアプローチみたいな感じだな、とか。あの岡部さんのシミュレーションみたいにテイクオフすればいいってことだな、とか。
アドバイスが、文字ではなく映像で感じられる。百聞は一見に如かず、を地でいける感じ。
自分のこれまでのトレーニングで、上手く機能していると思うことを書き出すと、以下の3つだ。
(1)ゴールを知っている
何よりジャンプが好きだし、好きだからこそ調べあげていて、技術的な正解を知っていること。
(2)現状把握
自分のジャンプ映像を見て、自分で良し悪しのジャッジが出来る。かつ、自分の映像を見ることに対して貪欲で、自分のジャンプを飛んだ時の感覚=主観的、かつ、ビデオ映像を通して客観的にも把握している。
(3)ゴールと現状の穴埋めの方法を日常的に考えている
技術的な正解を理解しているから、それを元にイメージトレーニングができ、合理的な身体の使い方をジャンプ台にいなくても模索できる。かつ、それを相当量している。平日の間にイメージをつくって、週末はそれを試す、というサイクルが定着している。
これら以外にも、他の選手から吸収するためのテクニックの観察とか、不調時でも精神状態を平常に保っていられる落ち着きとか、いくつかあると思う。でも、メインは上の3つだ。
特にイメージは、つくるのにすごく時間がかかる。
というのも、ジャンプのスタートから着地までのイメージは、(1)技術的な正解を知っていて、かつ(2)自分の現状を知っていて、(3)その穴埋め方法を考え抜いて、ようやくつくれるものだと思うから。
ジャンプ台に行ってから出来るようなものではない。前の日とか、もっと前の日とか。何日もかけて、ようやく出来てくるもの。
そして、それを実現するのが週末のジャンプ台なわけだ。
■大学生チームに思うこと
一緒に練習している大学生チームが僕にかなわないとしたら、それは上記の(1)~(3)で圧倒的な差があるからだ。筋力などは、普段から身体を動かせる環境にある彼らの方がはるかに強いけど、ここに差がある。
つまり、長距離を飛ぶには、ジャンプ台についてから頑張り始めてるだけでは足りない。
実現したいイメージがないまま、急にジャンプ台に来てから張り切ってみても、何をすべきかすら分からないまま、本数だけが過ぎていくだろう。
だから、もしより遠くに飛びたいと思うなら、ぜひ(1)~(3)をやってほしいと思う。
彼らとは、5年後も10年後も、一緒に飛び続けて、競い合いたい。
個人戦も団体戦もやって、プレッシャーをかけ合いながら飛んでいたい。
だからきっと楽しいと思うのが、数年後に全員がHSを狙えるチームになり、紅白戦するとか。
そういったみんなで試合が出来ると思うと、楽しみきわまりない。
自分自身も、ラージヒルでK点を越えていけるまで、137mラインを踏むまで、ジャンプを離したくない。
もっともっと、遠くへ遠くへ、飛びたい。
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